「日本国紀」の「ダメなところ」を今更だが語る。

 ネットを震撼させ日本「炎上」史に燦々と輝き続ける伝説の本「日本国紀」が60万以上も増刷され本屋に大量に平済みされている、60万部を超え、大ベストセラー。著者は、デマで有名な、百田尚樹。永遠の0の作者であり、保守論壇の代表格の作家だ

 そもそも私が「百田尚樹」に興味を持ったのは10年前。ネット上で「百田尚樹の暴言」を見聞きした時はノンポリの学生だったんだけど近年増えてきたヘイトや(歴史修正的な言説)に接して、百田氏の言動に益々興味を持ったのがキッカケだ。そのいわば歴史に興味を持たせてくれた恩師が、百田尚樹なのですが、彼の節々から発される「日本復古」思想から若い愛国者が生まれるその歪んだ現状の「決定版」として発売された本がこの「日本国紀」である。
 で、巷で結構話題になっていたので、早速買って読んでみた。が、結論を先に言うと、百田氏の言動を日々ウォッチする者であれば、何度も聞いたような話ばかりで、予想以上に目新しさがねぇ。例えば百田氏がテレビで「GHQ!」「GHQ!」と喚き散らしている姿を何度も見ている者からしたら自虐史観の下りも「またそれかぁ」という感じ。正直、萎え萎えですよ。

 自虐史観とは、何か。と言うとですね。学校の先生が「日本は悪い国なんだ」と子供に教える現象の事だ。だから「日本を愛す空気を取り戻そう」と百田氏は主張するのだが、私は、自虐史観を受けた世代に当たる。世代に当たるのだが、学校の授業でそんな「自虐史観」を受けた記憶は一度も、ない・・歴史の授業を振り返ってみてもそこにあったのは自虐じゃなくて「暗記」だった。大学受験用の「受験対策」的な雰囲気に終始してた感じに思える。だからその後に続く百田氏の「自虐史観を植え付けたGHQ憎し」の思想に、「GHQ!」「GHQ!」とネトウヨよろしく涙を流して共感できねーのだ、こういう所に躓いてまう要因があるわけなんだけど、更に百田氏の歴史観が、かなりトンデモだ。本書の中で、一番力がこもっているのは、昭和史だ。百田氏は言う

 「中国や韓国は悪い国だったと攻めるが、日本人は、そんな酷いことはしていない」「南京事件はでっち上げだ」 読む前から、想定していた通り、南京事件が、本書の中で一番力がこもっている。だが、私の浅い知識からしても、その歴史観は、あまりもトンデモのオンパレードであった。

 

 百田氏は、南京事件で、もし「虐殺が発生したのであれば」特派員が誰も報道してないのは変だ。と主張

 虐殺が起きたのであれば報道されてない事実は、南京事件が「なかった証拠」だと言い始める。


 当時、南京には欧米諸国の外交機関も赤十字も存在しており、各国の特派員も大勢いたにもかかわらず、大虐殺があったと世界に報じられていない。P369

 

 もし虐殺が発生したのであれば、虐殺が報道されていない事実は「中共の『プロパガンダだった証拠だ』と主張する百田氏、

 だがコレ事実が間違っている。当時、しっかり南京虐殺は報じられている。ニューヨークタイムズや、ロンドンタイムズ。シカゴ・デイリーニュース。で南京虐殺を報じている。(報じられている記事は、南京資料アメリカ関係資料で全部読める)

 あと、ジャーナリストが「大勢いた」と言うのも正確に言うと間違いで当時南京は外から日本軍に封鎖されていたのでジャーナリストは少数であったと言うのが正確だ。

 

 まずこんな感じにいきなり冒頭から南京事件の基礎知識が間違った箇所に出くわしてしまうんだけど。

 さらに百田尚樹は、南京市民の人口が急増しているのは虐殺事件が「なかった証拠だ」と言い始める。


 同じ頃の南京政府の人口調査によれば、占領される直前の南京市民は二十万である。もう一つおかしいのは、日本軍が占領した一か月後に南京市民が二十五万人に増えていることだ。南京市民が増えたのは、町の治安が回復されたからにほかならない。P369

 

 これも事実が完全に間違いだ。そもそも20万は「安全区域」の数を指すのであって、南京全域の事は指していない。安全区とは、日本軍の攻撃から市民を逃がすための区域の事ですから、南京の人口が増えているのは、それは「安全区の数が増えた」=「難民が増えた」ことでしかありません。これ南京否定派が陥る初歩的なミスリードなのだ。

 

 このような初歩的なミスリードが平気で続き、

 さらに百田尚樹は、松井関根しか裁かれていないのは論理的におかしいと主張

 


 30万人も殺したはずなのに、南京虐殺では、南京司令官の松井岩根大将一人しか罪を問われていないのだ。P371

 規模の大きさからすれば、本来は虐殺を下した大隊長以下、中隊長、小隊長、さらに直接手を下した下士官や兵などが徹底的に調べ上げられ、何千人も処刑されてなければおかしい。しかし、現実に処刑されたのは松井関根一人だけだった。P371

 

 百田氏は、松井関根しか南京で裁かれていないのは中共の「ねつ造だった証拠だ」と主張する

 だが、これも事実が完全に間違っている。起訴されたのは、松井の他に、柳川平助や、中島今朝吾も存在した。が、前者は、日本の敗戦前に、亡くなり。後者は肝硬変で亡くなっている。戦犯だった皇族の朝香宮鳩彦も居たが、天皇の免責をしていたことから、彼は南京軍事法廷でも免責とされた。実際は、松井岩根以外の軍人も処刑もされている。

 南京で裁かれた裁判は、東京裁判と、中国軍事法廷二つあり、中国軍事法廷では「谷寿夫」「田中」「野田」「向井」が処刑されている、そのほかの実行犯は、国共内戦が始まったおかげで蒋介石の意思で裁判を打ち切って結果的に「小人数しか裁かれなかった」だけの話なのだ。だから「松井しか裁かれなかったから捏造だ」というのが既に事実誤認なのである。

 

  

 とまあここまで読んでテキトーに新書何冊か読んだだけでも

 誰でもわかる南京事件の間違った箇所の連続で笑ってしまうのだが、

 

 さらに凄いのが百田氏。以下の根拠をあげ、「日本は侵略国ではない」と言い始める。

 


 日本はアジアの人々と戦争はしていない。日本が戦った相手は、フィリピンを植民地としたアメリカであり、ベトナムとカンボジアとラオスを植民地としていたフランスであり、インドネシアを植民地としていたオランダであり、マレーシアとシンガポールとビルマを植民地としていたイギリスである。日本はこれらの植民地を支配していた四か国と戦って、彼らを駆逐したのである。P392


 これは本当に驚いた。つまり百田氏は「欧米としか戦ってないから、日本は侵略じゃない」と言いたいらしい。

 でも、これ単に歴史の史実が間違っているだけだ。太平洋戦争の時も日本軍はフィリピン軍と交戦しているし、インドネシアでも抗日部隊と戦っているし、ベトナムでも ベトナム独立同盟(ベトミン)とも戦ってます。実際は、アジア人ともかなり戦っている。百田氏に言わせれ「日本軍の侵攻は善行で、白人の支配層を駆逐したのだから侵略ではない」と言いたいのだろうが、実際、日本の侵攻も搾取そのものだった。その証拠に、ベトナム人は、日本軍が侵攻した時何を思ったか、ホーチミンの回顧録から、抜粋。
 日本の「大東亜共栄圏」とかの無意味なスローガンは、人民からはなはだしい憎しみをかっていた。
 (ホー・チ・ミン回顧録 P193)
 略奪者日本は、人民の田畑をとりあげて、田に実のついている稲も強制的に刈り取らせた。農民の憤りは深刻だった。日本とフランスの侵略者は、たがいに争って、わたしたちの人民の骨身をしゃぶりあった。(ホーチミン回顧録P176)
 
 コレのどこが「アジアの開放」なのだろうか。どう見ても「搾取」にしか見えないのだが。

 インドネシア人はどうか。
 「インドネシアにおける日本軍の占領行政は、強圧的で残酷なものであった」(イワ・スクマ・スワントリ自伝P103)


 シンガポール。
 「私は、日本軍の占領下で幼少時代を送った。日本兵に何度もひどい目に合わされた」(シンガポールの初代首相リークアンユーの回顧録序文から抜粋)


 マレーシア。「日本軍は連合国に無条件降伏した。戦争が終わったことがわかるとアロースターの人々はホッとした。私たちを支配した日本軍がいなくなるばかりではなく英国が戻ってくる」。(マハティールの履歴書。P203)

 

 フィリピン。
 「フィリピン人が沿道に立ち並んで罵声をあびせかけ、石をぶつけてくる。中略。家を焼き、財産を略奪し、多くの非戦闘員を殺した日本に対するフィリピン民衆の怒りは当然だ(戦争と戦う。ルソン戦体験。P203)

 これが日本軍の「アジアの開放」に見えるのだとしたら相当オメデタイ人なんじゃないか。ざっと証言を読んだだけで欧米型と同じ搾取だったのが分かる・・・何故かその事実を無視して百田氏は「アジアを解放した」の一点だけを強調、日本を称賛。もし「アジアを開放した」「日本は人種平等を掲げた尊い国だった」と本当に思うのであればアジア人を傷つけたことを真っ先に反省するのがアジア解放論者だと思うのだが・・・とにかくご都合主義な「つまみ食い」史観に溢れていてすごい。

 さらに百田氏は、日中戦争で双方の犠牲者を弔った松井関根を称賛。
 「死者はすべて成仏する」という仏教精神と、「死者を鞭打たない」という日本人特有の心理がある。P418と書いているのには笑った。

 土井たか子が死んだときに「まさしく売国奴だった」と言ったお前が言うなとw

 

 こんなふうに

  読めば読むほど百田氏の「杜撰さ」が垣間見えてきて精読に堪えない一冊が

 この日本国紀なのである。

 

 更に百田氏は日韓の懸念問題である「慰安婦問題」について最初に火をつけたのは朝日新聞だと主張。百田氏によれば、従軍慰安婦を外交問題に発展させたのは、朝日新聞だと書く(朝日新聞が生み出したもう一つの嘘は、いわゆる「朝鮮人従軍慰安婦」問題である。P466)(日本の状況を見た韓国も、中華人民共和国同様と同様、「これは外交カードに使える」として日本政府に抗議を始めたP468)

 うーん。これも微妙に史実を「つまみ食い」しているな。実は慰安婦問題は東京裁判で既に語られていたのが実態だが、それまでには外交問題には発展せず、1991年に金学順氏が初めて名乗り出て、初めて日韓問題に発展したのが発端だ。それから韓国の団体が聞き取り調査を開始、さまざまな強制が語られフィリピンの社会活動家が、金学順のカミングアウトを知りフィリピンの慰安婦被害者を探し出すと、今度は、台湾の被害者の告発も始まり、台湾、フィリピン、インドシアからも声が上がり、オランダからの告発も始まります。

 つまり慰安婦問題を全て「吉田証言」だと百田氏は思い込んでいるのだろうが、実際は金学順氏の慰安婦metoo運動が慰安婦問題を激化させたのであって、吉田証言が全ての元凶だったわけではない。吉田証言が虚偽だと分かったのだから全ての慰安婦問題が虚偽だと言うのは、ミスリード極まりない。ゲイ・マクドゥーガルの報告書を見ればわかる通り「身体的暴力、誘拐、強制、詐欺的手段」と書かれてある。つまり本人の望まない使役を構造的に強いられる「慰安婦制度」が非難されているのであって直接的な「強制」にイチイチ拘泥しているのは日本人だけだ。しかもタチが悪いのは、基金まで作って更にお金と一緒に歴代の総理の謝罪文まで送ったフィリピン、オランダ、台湾、インドネシア、を完全スルーしてるとこだ。ネット右翼にありがちな論法で、都合良い史実だけを「つまみ食い」して日本の歴史を「ファンタジー小説」に書き換える百田尚樹氏。
 

 

 さらに秀逸なのは、日米戦争の下りだ。百田氏は、日米戦争をこう論じる 

 「日本の戦争はアメリカに石油を止められたことによる自衛戦争だった」
 これも(なんか保守派がよく使う常套句)なんだけど、これもちょっと微妙に違うよね。実際には日本はオランダから石油を購入できたはずで購入できなかったのは、日本が、ドイツと同盟を組んでいたからで、オランダからしたら本国をドイツに占領されているので、敵国に「石油を売る」取引を渋られただけの話だ。これのどこが「自衛」なのだろうか。日本の方針でドイツと同盟を組んで自分の首を絞めただけの話じゃないか。しかも百田氏は対米戦の悪化を招いた南京の爆撃をまったく触れないのだ。「自衛だと認めさせる既成事実」の努力を怠り「内輪の論理」だけで国策を遂行させたとこが戦争に至った原因だと思うんだが「石油が止められた」と一点どまりで日本軍を正当化するのである。これでは「戦争に導いた」指導者と変わらんやんけと思う。

 さらに百田尚樹は、GHQの言論弾圧が如何に日本を骨抜きにしたかと訴え始める。GHQの言論弾圧が如何に日本を洗脳したかと訴える。ところが、GHQの言論弾圧には憤るくせに、大ニッポンの言論弾圧には全く触れられない。創価学会の「牧口常三郎」は、神宮の「大麻」を焼却した罪として、大逆罪と治安維持法で獄中で死亡している。哲学者の三木哲も、共産主義者にごはんや布団を挙げた罪で、刑務所にぶち込まれ獄中で死亡している。大日本帝国の酷い言論弾圧には、一切触れられないのはダブスタもええとこ。
 加害意識もなければ自国民に対する贖罪意識もない。こんな人間が、憲法を改正して自衛隊を「軍にしようぜ」と息巻いているのだ。こんな人間が軍隊の指揮をとったら必ず現地の民間人を虐殺した歴史や思想犯を弾圧をした歴史を繰り返すと思う。
 わたしが百田尚樹に不快感を覚えてしまうのは、この現実認識のゆがみなのだが、そのゆがみが濃縮された日本国紀は百田尚樹の「壮大な脳内ファンタジー架空戦史お笑い国紀」である。大人にはおススメしませんが、歴史を学びたい中学生にはオススメです。

 

日本国紀

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