「騎士団長殺し」を読んだ結果・・・・・・・・・・・。

 

 2017年。日本で最もノーベル賞に近い男。村上春樹が「新作」を世間に発表してから1ヶ月。その全貌が激しい論争を巻き起こし今も世間に波紋を広げている。なんにせよハルキ待望の4,5年の一大イベントだ。このイベントに私も参戦しようと厳かな気持ちで「騎士団長殺し」を読んでいた。実は読む前から、ある程度、内容の予想を立てていた。おそらく「バーテンダーが主人公で、スパゲティを茹でながら、一人の愛人(特に愛してはいない女)とセ○クスをするのが日課。ある日謎の老人に突然(あちら側)の世界に連れて行かれ騎士団長と戦い、壮絶な戦いの末、最後はめっちゃセ○クスして終わり」みたいな予想をしてたのだが今回の新作。読んで思った感想を素直に言うと・・・・・・・・・・・・とっても微妙です。まー確かに内容は普通のハルキだったよ。
 孤独な画家が主人公。妻とはセックスレスになり、やがて妻と別居して愛人とセッ○スしまくる。実に春樹らしい設定で今作も始まる。「それでも彼女は私をセ○クスをしたがった。少なくともそうすることを嫌がらなかった。どうしてだろう?」(P19) いや、どうしてだろう?、って勝手に自問自答されても。この知らんがな感も健在。そして離婚を突きつけられるのだが春樹作品なので一般的なリアクションではない。離婚を突きつけられると窓に顔を向けて「空には一羽の鳥も飛んでいない。鳥たちはどこかの軒下でおとなしく雨宿りをしているのだろう」(P28) 
 そんな自分の離婚のことより鳥たちの安否を気にするという。これが私たち日本人が忘れかけたオサレ気遣いである。そして妻から突然別れ話を切り出されるのだがショックで街中を迷走し始める主人公。あまりの衝撃で「一体おれは誰なんだ」(P38)と記憶喪失になりかねる(アホ?)。それで迷走して行き着いたカフェでサンドウィッチを注文。しかしその後「今は何も食べたくない」(P38)とサンドウィッチを拒絶。なぜ注文した!?
 そして妻と別れて知り合った人妻と早速、セ○クス。おい。しかもそんな愛してない女(またかよ)しかも二人も抱えるこのゲスの極みぶり。もういきなり冒頭から気合入りすぎである。オサレ銀河系の「オサレジェダイ」たる姿に懐かしさを感じ思わず涙が出そうになった。
 そして今回も「心にぽっかり穴があいた」主人公なのである。それはかつて自分の妹が不運な病気で亡くなったんだと。それが今も自分の心を深く苦しめて人生に影を落としてるんだ。と、そういう暗い過去をアピールしてくるるのだが本気で悲しんでる風に見えない点が実に春樹的。
 「そんな狭苦しい箱の中に妹の華奢な身体を詰め込んで欲しくなかった。その身体は広々としたところに寝かされているべきなのだ。たとえば草原の真ん中に。風が草をゆっくりそよがせ、そのまわりでは鳥たちや虫たちが、あるがままの声を上げているべきなのだ」(P167)
 妹が死んだのに何故かクッソ寒い「詩的」表現に酔っている主人公。強烈な張り手を一発アゴに食らわせたいと思った。そんなイケ好かない詩人風情を気取りながら友達から空家を借りて一人暮らしを始める主人公。料理を作りながら「『モンクス・ミュージック』が私のいちばん好きなアルバムだ」(P247)と一人呟く。お前のアルバムの好みなんか知らんわw。そしてこれも毎度お馴染みの展開だが、別れた妻への未練なのか。夢の中で妻と・・・・・・・セ○クス。(なんか前もあったな・・・多崎つくるだっけ?)しかもそれを「まるで世界の原初のカオスのように」と、なんかカッコイイ言い方で締めくくる主人公。このシーンに唖然とする人も多くいるだろう。が、驚く必要はない。春樹文学の世界では「好きな女に夢の中で精液をぶっかける」というのは「クラシックな自己表現」として確率されつつある。好きな女を夢の中で襲いかかりレ○プするというのは春樹文学の中では「フレンチキッス」ぐらいの感覚やから。見守ってあげて欲しい。そして愛人と濃厚なセッ○スを始める主人公。「左手で乳房を揉んで」と頼まれ主人公はクールに切り返す。「左足は何をすればいいのかな? カーステレオの調整は出来そうだけど。音楽はトニー・ベネットでかまわないかな」(P269。トニーベネットだって。アハハ。しかも、今度はテレフォンセ○クスを人妻と堪能。夢に続いてテレフォンセ○クスである。まさにオールドラウンドプレイアー。性描写なら「こんな引き出しもあるよ」という春樹の自己アピールが謎すぎる。
 そんな仲睦まじいセッ○スライフを愛人と送っていると「免色」と名乗る男から「自分の娘」を描いてと頼まれる主人公。主人公は、死んだ妹にそっくりの免色の娘に一目ぼれ。なぜか胸ばかり眺める。あふれるスケベ心を隠さない。そしてその絵を描こうとするが夢の中で妻とセ○クス、ある日「謎の穴」を庭で発見。その穴に入ると、なぜか妻とやり直したいと思い始め妻によりを戻さないかと持ちかける主人公。実は妻は妊娠していて、もしかしたら夢の中で「僕がきみを妊娠させたのかもしれないね」と告白、それを聞いて、妻も「素敵ね」。みたいな事を言う。どこがや。大体こんな感じ。
 オス、おら独身の画家!⇒可愛い奥さんもいて幸せだなぁって思ってたら妻から別れを告げられて独身になちゃった。マジでツレー。⇒妻への思い出が忘れられねーツレー。愛人二人とかいるけど、マジでツレー。⇒ ツレーから夢の中で妻の家に行ってレ○プしちゃっった!ごめん。⇒ 謎の穴発見。⇒ 穴に入ったあと復縁したいと妻に切り出したらOKしてくれた。ついでに夢の中でレ○プしちゃったことを言うと、妻も「素敵ね」って言ってくれた。うれしかった。⇒完!!!!!!!
 実に暖かい。優しい気持ちになれるハートフルな物語でした。

 自分の娘が気になり勝手に部屋を覗き見する。覗き魔モンスター。免色。別れた妻が気になり勝手に精液をぶっかける。シスコン射精モンスターの主人公。どちらもホラー映画並みに気持ち悪い。夢の中で妻を妊娠させたと思い込むとか完全にハラスメントである。なんでこんな奴と復縁できるのか。もう神秘の領域だ。そして主人公の夢精で生まれた子供に「室」(むろ)という名前を付け(もっとええ名前あったやろ)なんか夫婦仲も良くなり終わっていくのだ。死んだ妹に未練タラタラのシスコンクソ野郎の、復縁話だったのである。
 結局あの「穴」なんだったの?とか。何となく消化不良な部分も多い。あの穴。あんだけ引っ張といて入ったら入ったでなんも起こらんのんかい!?っていうズッコケ。「多崎つくる」と「ねじまき島クロニクル」足して割ったような作風でなんかイマイチ盛り上がる展開にもならず、新しいものを村上春樹に期待した人にはほぼ間違いなく肩透かしを食らう作品である。
 あと、これちょっと真面目な話をすると・・・「約束された場所で」を読んでないと、わからない部分もあるよね。村上春樹が本やインタビューの中で、やたら過去の戦争の話を持ち出しているのは実は理由があるわけよ。
 実は、村上春樹は子供の時から「お父さんが人を殺してたんじゃないか」という疑念を抱えてきた人なわけ。子供の頃に中国で人を殺した父親の戦争体験を聞かされてその話が衝撃的だった村上春樹は、戦争で人が変わってしまう因子が自分にもあるんじゃないかと恐れてきた人なのである。今作は、その心情風景に迫ったルポータージュなのである。お父さんの犯した罪の「汚れ」を息子が精算する物語とも言える。イデオロギーが人を変えてしまう父親の戦争体験。「約束された場所で」のオウム信者との対話を通じて「内部の矛盾を、外敵を作って誤魔化そうとする物語」をジャンクストーリーと呼び、もっと有効なワクチン的物語を提供しようと村上春樹は書くことを通じて戦っているのである。でも、その書く事を通じて戦った結果が、なぜ別れた妻に夢の中で精液ぶっかける。みたいな話になってしまうか。謎は深まるばかりだが、文章はホントに見事なので、村上春樹のダイナミズムを読んで堪能してみて欲しい。

 

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

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